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b:会話の記録を中心に討議を行う。
4)あくまで人の精神的・霊的な面との関わりが中心である。
なお、Pastoral Careを行う人を臨床司牧師と呼んでいる。臨床司牧師は主として聞き役になり、上手に聞き役をしていると患者のほうから問題点の結論を出してくることが多い。
癌にかかったときの受け止め方は、その人の年齢や立場などで著しく変化する。そこで著者は、病室で末期患者に接し、患者との心の交流が容易であった例、あるいは患者との心の交流にかなりの時間をかける必要のあった例を経験した。そこでそれらの末期患者のエコグラムを図4に示す。この図では、自分の人生を振り返り、満足した気持ちでいたときに罹患した81歳の肺癌患者は、亡くなる3日前に、自分は人生の最後をこのような静かな落ち着いた気持ちで迎えることができるとは思わなかったと述懐した。この患者のエコグラムは「成人」の部分が高く、理想型のエコグラムに近いパターンを示していた。
一方、若く仕事が順調なときに罹患した53歳の直腸癌患者は、さまざまな民間療法を併用の末に本院に転入した例で、末期の状態であるということの受け入れが困難で、繰り返す病状説明および治療方針の後で、自分はまだ若いのにどうして助かることができないのかとイライラした状態が続き、使用している薬の種類や量に至るまで自分の希望を細かく述べ、関わる職員も心身ともにかなり疲労することが多かったが、エコグラムでは「自由な子」のスコアがきわめて高く、「順応の子」のスコアが低いという特徴的なパターンを示した。
しかし、このような困ったときにこそ日野原6)が述べているごとく、医師は冷静な気持ちでその患者に対応できる人間でなくてはならないことを痛感した。
64歳の前立腺癌患者は、元気な時は積極的な延命処置を希望しないという依頼を書類で受けた。
しかし末期になって食事ができなくなり衰弱してくると、積極的な延命処置を希望するようになった。平素奥さんに付き添われ、静かな毎日であったが、このような例は患者としてごく普通の生き方であると考える。この例はやや理想型に近いエコグラムであった。
次に、理想型のエコグラムとこれら3人のエコグラムについて5項目(批判的親保護的親、成人、自由な子、順応な子)の得点をさらに詳しく分析するために、多変量解析を用い、Mary11)と同様に、クラスター分析(ウォード法)により樹状図を描いてその分布を比較検討すると、図5のように80歳の肺癌患者は理想型のエコグラムに近いところに位置するが、53歳の直腸癌患者は理想とかなり離れたところに位置していることがわかり、特異なエコグラムであることがわかる。なお、64歳の前立腺癌患者は両者の中間に位置している。

 

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図4 3人の末期癌患者と理想型とのエコグラムの比較

 

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図5 図4の多度量解析(クラスター分析)による検討

 

 

 

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